新型コロナウィルスの蔓延により、全国民が感染予防を余儀なくされ、普段は健康に関心のない人たちも、感染症対策が必要不可欠になりました。マスクやエタノールが市場からなくなり、未曽有の状況になったのは、記憶に新しいと思います。
「健康リテラシー」を高め、正しい情報を見極めましょう
先日、顔と両手が赤くただれた方が来院されました。「新型コロナウィルスが気になるので、頻繁に消毒をしています。これなんですけどね…。気になったら手や顔、洋服にもスプレーしています」と、カバンから小袋に入っているアトマイザーを出されました。
「これ、先日購入したんですが、クエン酸です。クエン酸は、ウィルスに効くっていうから、大きなボトルを購入しました。携帯用に分けて持ち歩いているんです。それで、気になるとシュッシュッと手や顔にスプレーしています。でも、最近、手が荒れてきてね…、染みるんですよ。そういえば、顔も染みています」と、私の前でもシュッシュッとスプレーをして見せてくれました。
「え?クエン酸ですか?残念ながら、クエン酸は新型コロナウィルスの消毒効果はありませんよ。それに、クエン酸水は酸性溶液ですから、皮膚を荒らします。クエン酸水を散布したら、必ず手を洗って流さないと、肌荒れの原因になりますよ」と説明しました。
「え?効果ないんですか?インフルエンザウィルスには効果があると書いてありました。これ高かったんですよ。先日、床屋さんに言ったら、『ウィルスに効果あり』ってポスターがあって、売っていたから、即購入したんです。クエン酸って洗い流さなければいけないんですか?どうりで、手が荒れるわけだ…」。「クエン酸、100円ショップでも売っていますが、キッチンなど水垢を取るのに効果的です。でも、手に付着したら洗い流さないと荒れてしまいます。厚生労働省でも、新型コロナウィルスの消毒は、エタノールと次亜塩素酸ナトリウムのみで、クエン酸は推奨されていません」。立派なポスターになっていて堂々と販売されているからと、この方は安心して購入し、間違った使い方をしていたようです。
消毒や除菌には目的に合った商品を
似たようなケースですが、次亜塩素酸ナトリウムを希釈したものを手に散布している方も拝見しました。消毒どころか、体には良くないので、正しい使用方法を知っておきましょう。
下記の表にあるとおり、消毒液や除菌用品は「手指」の人体に使用できるものは限られており、机やドアノブのような「モノ」に使用するものと混同しないよう注意しましょう。
新型コロナウイルス消毒・除菌方法一覧(それぞれ所定の濃度があります)
方法 モノ 手指 現在の市販品の薬機法上の整理 水及び石鹸よる洗浄 ○ ○ ― 熱水 ○ × ― アルコール消毒液 〇 〇 医薬品・医薬部外品(モノへの適用は「雑品」) 次亜塩素酸ナトリウム水溶液
(塩素系漂白剤)〇 × 「雑品」(一部、医薬品) 手指用以外の界面活性剤
(洗剤)〇 -
(未評価)「雑品」(一部、医薬品・医薬部外品) 出典:厚生労働省「新型コロナウイルス消毒・除菌方法一覧」より
このように、健康について、ポスターやテレビで「効果がある」と宣伝していたから信用できるというわけではありません。その情報がどこから発信されているか、科学的根拠があるか、権威があるから正しいと鵜呑みにしていないか、選択することが重要です。ともすれば体に無益なだけでなく、有害になることもあります。この方には、皮膚科受診をお勧めしました。
混沌とした情報が流れている時こそ、健康リテラシーを高めた情報の見極めが必要です。自分の体を守るスキルで、正しい情報の選択をしましょう。
【日本健康マスター検定公式テキスト 「健康リテラシーを身につける」参照】
日本健康マスター検定 公式副読本 (詳しくはこちら)
監修:岡部信彦
監修協力:日本医師会
編集協力:NHKエディケーショナル
勝木美佐子 (かつき・みさこ)
医学博士/産業医/労働衛生コンサルタント
日本大学医学部兼任講師、日本医師会認定産業医、日本医師会認定健康スポーツ医、日本人間ドック学会社員、日本公衆衛生学会評議員、日本産業衛生学会指導医、人間ドック健診専門医・指導医他、複数の学会で座長も務める。臨床医として診療活動と共に、産業医の経験も豊富。2016年産業医事務所を開業する。