MENU

CLOSE

【健康な高齢化・各論②身体的能力(中編)】『身体活動と健康長寿』

実際の医療現場に従事されている皆さまに執筆いただき、健康に役立つコラムを展開しています。コラムカテゴリは健康マスター検定の公式テキストカテゴリーに揃えています。
公式テキストと照らしあわせていただくことで、幅広い学習をしていただけます

【健康な高齢化・各論②身体的能力(中編)】『身体活動と健康長寿』

百年健幸を目指して始めたライフワーク『笑顔と健幸プロジェクト』を通じ、WHOが提唱する“ヘルシー・エイジング(健康な高齢化)”を社会実装すべく活動しております。具体的には、“機能的能力”を決定する身体的能力、精神的能力、生活環境の開発および相乗効果を促す取り組みをしており、実例やその背景を紹介していきます。

今月も引き続き、個人の“内在的能力”のうち“身体的能力”に焦点を当て、『身体活動と健康長寿』について概説します。

身体活動とは「骨格筋の収縮活動よりもたらされるあらゆる身体的な動き」と定義されており、家事や仕事の移動などを含めた日常生活動作に相当します。健康や体力の維持・向上を目的として計画的に実行する「運動」を包括した概念といえます。家事や立位は低強度(3METs未満)、普通歩行や早歩き、サイクリングは中強度(3~5.9METs)、ジョギングや水泳は高強度(6.0METs以上)の身体活動となります(図1)。

図1;身体活動強度1)

(栄養-評価と治療 2011;28(4):63-65表2を改変引用)

2020年に改定されたWHOの身体活動・座位行動ガイドライン2)3)では、「週に150-300分の中強度の有酸素性の身体活動、または週に75-150分の高強度の有酸素性の身体活動、または同等の中強度と高強度を組み合わせた身体活動」が推奨されています。この改定を受けて、我が国の「健康づくりのための身体活動基準2013」も10年ぶりに改定され「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」となりました4)これらの改定の要点をわかりやすく解説したサイト5)がありますのでご参照ください。

適度な身体活動は、認知機能の低下の遅延や、心血管疾患のリスク低下、フレイル予防といった健康長寿の要件の達成(前回コラム図1)、高齢者の介護が必要となる主な原因の予防や管理(前回コラム図2)だけでなく、うつ病予防(メンタルヘルスの改善)にも貢献することが示されています(図2)。

図2;身体活動の健康効果に関するエビデンス6)

(Lancet.2012;380:219-229 Fig.1を改変引用)

 

しかしながら、これら各種ガイドラインが提唱する身体活動度の達成が難しい方々にとって、効果的な代替手段となりうる研究7-9)を三本ご紹介します。

 

一本目の研究は11万人を調査した結果で、年齢や性別に関係なく最適な歩数は8000歩/日で、全死因死亡率および心血管疾患死のリスクを50%低下させること、早歩き(中等度の運動)には歩数と独立した健康効果があるという報告です(図3)。この切り口なら、少し気楽に取り組めるかもしれませんね。

図3;歩数と生命予後7)

二本目の研究は6万人を調査した結果で、週に150分(中強度)または75分(高強度)の身体活動を、週末や余暇にまとめて頑張る週末戦士(Weekend Warrior)になれば、死亡率が全死因で30%、心血管疾患死で40%、がん死で20%も減らせ、通常のやり方(Regularly active)と遜色ない効果が得られるという報告です(図4)。このくらいの時間なら、1-2日に分けて無理せず取り組めるかもしれませんね。

図4;Weekend Warrior(週末戦士)になろう8)

(JAMA Intern Med.2017;177(3):335-342 Table 2を改変引用)

三本目の研究はウェアラブルデバイスを活用して2.5万人を調査した結果で、1日たった3分、日常生活の動作を高強度になるよう意識するだけ(各動作につき1分程度)で、全死因死亡率を20%くらい低下できるという報告です(図5)。例えば、会社や駅までラストスパートしてみるとか(もちろん安全には気をつけて!!)でしょうか。これを高強度の(vigorous)、間欠的な(intermittent)、日常生活での身体活動(lifestyle physical activity)の頭文字をとって“VILPA(ビルパ)”といいます。

図5;日常生活での間欠的で高強度な身体活動(VILPA)の効果9)

(Nat Med.2022;28:2521-2529 Fig.2を改変引用)

 

いかがでしたでしょうか?最大効果を得るため各種ガイドラインを実践しつつ、どうしても実践が難しい状況では、今回提示した3つの方法のいずれかを適宜組み合わせてみれば、“全か無か(all-or-none)”と諦めて何もしないよりは効果が期待できるのではないかと思い、私も日々実践しております。

なお何らかの疾患をお持ちの方は、活動強度や内容について事前に必ず主治医と相談の上で実践されますようお願い申し上げます

 

【参照資料】

1)栄養-評価と治療 2011;28(4):63-65(M-Reviewサイトより引用)

https://med.m-review.co.jp/article_detail?article_id=J0008_2804_0063-0065

2)WHO身体活動・座位行動ガイドライン2020(原文完全版)https://iris.who.int/bitstream/handle/10665/336656/9789240015128-eng.pdf?sequence=1

3)WHO身体活動・座位行動ガイドライン2020(日本語要約版)

http://jaee.umin.jp/doc/WHO2020JPN.pdf

4)厚生労働省「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」

https://www.mhlw.go.jp/content/10904750/001171393.pdf

5)東京都健康長寿医療センター研究所「運動・身体活動の“ちょい足し”のポイント:最近のガイドラインを踏まえて」(2024.3.1)

https://www.tmghig.jp/research/topics/202403-15415/

6)Lancet.2012;380:219-229

https://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736(12)61031-9/abstract

7)J Am Coll Cardiolgy 2023;82:1483-1494

https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0735109723064008?via%3Dihub#preview-section-abstract

8)JAMA Intern Med.2017;177(3):335-342

https://discovery.ucl.ac.uk/id/eprint/1539729/1/O’Donovan_Association_Weekend_Warrior.pdf

9)Nat Med.2022;28:2521-2529

https://www.nature.com/articles/s41591-022-02100-x.pdf

 

 

 


北野克宣(きたの かつのり)

医療法人菅井内科 副院長/抗加齢・生活習慣病センター長

医師/産業医/医学博士(金沢大学)

健康マスター推進リーダー/健康マスターエキスパート・普及認定講師

日本抗加齢医学会 評議員/アンチエイジングドック推進委員

学会認定専門医(総合内科、循環器、禁煙、抗加齢医学)

日本臨床コーチング協会認定コーチ

NPO法人 禁煙推進の会えひめ 理事

日本笑い学会 笑いの講師団 “笑顔と健幸の伝道師”

日本臨床栄養協会認定NR・サプリメントアドバイザー

日本ポジティブ心理学協会認定ポジティブ心理学プラクティショナー

ラフターヨガ・インターナショナル・ユニバーシティー認定笑いヨガリーダー

日本ヨガメディカル協会認定マインドフルネスヨガセラピー指導士/セラピスト