低栄養による高齢者の「痩せ」は命に係わる疾患に繋がることがわかり、大きな社会問題となっています。若い世代では肥満が動脈硬化や糖尿病など疾患に繋がるため減量が必要ですが、高齢者は痩せ過ぎの原因を知り、予防・改善により健康寿命をのばしていきましょう。
加齢による機能低下が「痩せ」に繋がる
人は加齢とともに腎機能、心機能、血液循環、代謝、筋肉量、嗅覚・味覚などの感覚機能、さらに咀嚼・嚥下機能、消化吸収能力が低下していきます。それらの機能低下が複合すると、
・食欲がない
・美味しくない
・食べていても吸収されない
・固いものが食べられない
・胸やけがする
・食べる気がしない
などが起こり、高齢者の痩せに繋がると考えられています。
また、老年期の抑うつも健康維持に大きく影響します。高齢者は老年症候群や疾患が原因で脳がストレスを感じると胃腸障害を起こし、胃もたれや腸内のガスでお腹が張った感じになります。その状態が不安や抑うつを引き起こし、さらにストレスとなる「機能的胃腸症」になりやすいと言われています。
※画像はいずれも日本医師会HPより引用
厚生労働省が発表した「令和元年度 国民健康・栄養調査結果の概要」によると、65歳以上の低栄養傾向の者(BMI≦20㎏/㎡)は、男性12.4%、女性20.7%となっています。また、85歳以上では、男性17.2%、女性27.9%となりました。厚生労働省HPより引用
私が勤めている病院でも高齢者の痩せは疾患の経過が改善されづらく、予備能力が低下し急変を起こしやすくなっています。栄養状態改善も治療の一環となっています。食べることが出来ないのに必要量を食べてもらうことは非常に難しいため、栄養状態改善に難渋しています。
低栄養による健康障害からフレイルに
高齢者にとって低栄養は、次のような健康障害に直結します。
・感染症、褥瘡、創傷治癒の遅延、骨格筋萎縮など
・筋肉量・筋力や骨量の減少により、転倒や骨折のリスクが増加(サルコペニア)
・疲れやすくなることで身体活動量が低下
認知機能の低下など精神的な面の機能低下も加わると、さらに活動量が低下し、社会的な側面も障害され、日常生活に支障をきたすようになります。日常生活に介護が必要な状態となるとますますエネルギー消費量は低下し、食事量が低下するといった低栄養となる悪循環を繰り返しながら、心身が衰えた状態である「フレイル」は進行していきます。
要介護リスクが高くなり、健康寿命が短くなってしまいます。
意識して低栄養を予防
- 食事の際には食欲増進させる工夫をしてみましょう。
・ご家族の方は一緒に会話しながら食卓を囲んで食べる。食べないことに対して注意したり、食べることを強要するのは控える。
・少しずつ食べられる量のみ盛り付けして、小出しする。好きな物を中心に献立を考えるなどの工夫する。
・食べやすい物、柔らかい物(ゼリーなど)、あるいは総合栄養食品(メイバランスなど)も栄養補助として考慮してみる。
- 規則正しい生活につとめ、適切な運動をこころがけて十分な睡眠をとるようにしましょう。
- 体を動かすことでストレスと感じていたことが解消することがあります。また、運動により筋力を維持することができます。体力が低下して出かけるのが難しいと感じられる方は訪問でのリハビリテーションなどを活用しましょう。普段できないような会話が弾んで心身ともに闊達となることがあります。
- 機能的胃腸症を疑う場合には、消化管運動を調整する薬などが有効な場合がありますので医師に相談しましょう。
高齢者の痩せを知り、痩せる前から対策を講じていく必要があります。そのために、「食べているよ」という言葉を鵜呑みにせず、何をどの程度食べているのか見てみましょう。それが本当に必要量なのか判断がつかないときは、医師に相談しましょう。解決の糸口が見つかるはずです。
引用:
日本医師会 035_072_chapter02.pdf (med.or.jp)
厚生労働省令和元年「国民健康・栄養調査」の結果を公表します (mhlw.go.jp)
参考:国立長寿医療研究センター
健康マスター公式テキスト p179「高齢者の低栄養を防ぐ」
田中 亮 (たなか りょう)
看護師/介護福祉士/認知症ケア専門士
健康マスター普及認定講師推進リーダー ・メディカル会代表。埼玉県内の総合病院に勤務の傍ら、最新の医学論文を読み解き、日々facebookを中心に健康情報を発信中。フレンド登録数は4000人を超えている。