MENU

CLOSE

【健康な高齢化・各論①生活環境(後編)】『ストレスと疲労、学域活動の可能性』

実際の医療現場に従事されている皆さまに執筆いただき、健康に役立つコラムを展開しています。コラムカテゴリは健康マスター検定の公式テキストカテゴリーに揃えています。
公式テキストと照らしあわせていただくことで、幅広い学習をしていただけます

【健康な高齢化・各論①生活環境(後編)】

百年健幸を目指して始めたライフワーク『笑顔と健幸プロジェクト』を通じ、WHOが提唱する“ヘルシー・エイジング(健康な高齢化)”を社会実装すべく活動しております。具体的には、“機能的能力”を決定する生活環境、身体的能力、精神的能力の開発および相乗効果を促す取り組みをしており、実例やその背景を紹介していきます。

“生活環境”後編の今回は、職域は産業保健(健康経営)としてストレスと疲労の関係を、学域は健康マスター検定を活かした学校保健活動を、それぞれご紹介します。

ストレスと疲労の関係については、日本疲労学会1)理事で東京慈恵医科大学疲労医学講座・ウイルス学講座2)教授、同大学疲労医科学研究センター長の近藤一博先生のご研究およびご著書を参照に要点をまとめてみました。参照した資料は最後に記載しておきます。興味を持たれた方は分かりやすいホームページのマンガ3)および書籍4)5)6)もぜひご覧になってみてください。

疲労には“疲労感”と“体の疲れ”という二つの側面があります。“疲労感”は温痛覚などと同様、危険を知らせる“生体アラート”です。疲労因子が炎症性サイトカインという物質を作らせ、それが脳に作用することで“疲労感”を生み出すことがわかりました。疲労因子とは蛋白質合成因子がリン酸化され本来の働きを失ったものなので、疲労因子の蓄積に伴いタンパク質の生成量が減ってしまうため臓器の働きが低下したり機能障害が起きる状態こそ“体の疲れ”の正体であることもわかりました。疲労因子のもう一つ怖い性質としてアポトーシス(細胞死の一種)を誘導します。アポトーシスは様々な疾患の原因になるため、過労死のリスクとなる可能性もあります。

ところでストレス応答と“疲労感”は、科学的に見ると正反対の働きをしています。脳がストレッサー(ストレス源)に反応すると、コルチゾールとアドレナリンという物質を副腎から分泌させます(ストレス応答)。コルチゾールは炎症性サイトカインを抑制するため、疲労感を減らす作用があります。そしてアドレナリンは体を活性化します。つまりストレス応答は“疲労感”を軽減します。実際、私たちが労働や運動をするに際し、“疲労感”とストレス応答のバランスをうまく取ることが望ましいのですが、ストレス応答が抑えるのはあくまで“疲労感”だけなので、 “体の疲れ(=疲労因子)”そのものは正しい疲労回復に努めない限りその間にも蓄積されてしまう点に充分な注意を払うべきです

私たちの身の回りには、ストレス応答と同様に炎症性サイトカインを抑えることができるものがあります。抗酸化成分を多く含有する栄養ドリンク、サプリメント、コーヒー、うなぎやニンニクといった食品です。しかしこれらの摂取は、ストレス応答をサポートするかのように“疲労感”を軽減しているに過ぎません。そういった手段を併用しつつ、何かを達成するために“疲労感”とストレス応答とが主導権の取り合いを際限なく続けていけば、最後は必ずストレス応答の方が消耗し、それまで膨れ上がっていた“疲労感”に一気に押し潰されてしまいます。さらに問題なのは、その間ずっと野放しに蓄積し続けた疲労因子は、心臓や脳を含む臓器に機能障害を起こし過労死につながるリスク3)4)5)や、うつ病の発症とも密接に関係している3)5)6)ことです

以上のことから、本当の意味での疲労回復には疲労因子そのものを減少させなければなりません。そこで重要になってくるのが疲労回復因子(脱リン酸化酵素)の存在です。“質の良い充分な睡眠”や、 前回コラムの“良い休み方(リカバリー経験)”の一つである「リラックス(心身の活動量を意図的に緩める)」をすることで、休息している間に疲労回復因子が働いて疲労因子を本来のタンパク質合成因子へと戻してくれます。

疲労回復因子は、ハイキングやジョギングなどの軽い運動で増やすことができるようですので、この観点からも適度な運動習慣を持つことの重要性が窺い知れますね。現在、疲労回復因子を増やす物質や食品などの研究が進められているとのことですので、今後の社会実装が楽しみですね。

最後に学域活動として、学校医をしている松山東雲中学・高等学校の取り組みをご紹介します。

https://kenken.or.jp/about/voice/koe_15

健康増進に向けたワークライフバランスを構成する要素として、生活環境は非常に重要です。そこで、次世代を担う生徒たち自身による学域での健検取得の広がりを通じて、ご家族だけでなく、そこから職域や居住地域の様々なコミュニティーへと健康リテラシー向上の輪が広がっていける仕組み作りを目指しております。生徒と教師が案を出し合いながら一緒に楽しく取り組む姿勢がとても素晴らしいと感じております。

【参照資料】

1)日本疲労学会

https://j-fatigue.jp

2)東京慈恵医科大学疲労医学講座・ウイルス学講座

https://jikeivirus.jp/about/

3)マンガでわかる「最新!疲労・ストレス講座」

https://jikeivirus.jp/hiroukouza/

4)漫画「疲労ちゃんとストレスさん」監修・原作 近藤一博(河出書房新社)

5)ブルーバックス「疲労とはなにか〜すべてはウイルスが知っていた〜」近藤一博(講談社)

6)漫画「うつ病は心の弱さが原因ではない」監修・原作 近藤一博(河出書房新社)

 


北野克宣(きたの かつのり)

医療法人菅井内科 副院長/抗加齢・生活習慣病センター長

医師/産業医/医学博士(金沢大学)

健康マスター推進リーダー/健康マスターエキスパート・普及認定講師

日本抗加齢医学会 評議員/アンチエイジングドック推進委員

学会認定専門医(総合内科、循環器、禁煙、抗加齢医学)

日本臨床コーチング協会認定コーチ

NPO法人 禁煙推進の会えひめ 理事

日本笑い学会 笑いの講師団 “笑顔と健幸の伝道師”

日本臨床栄養協会認定NR・サプリメントアドバイザー

日本ポジティブ心理学協会認定ポジティブ心理学プラクティショナー

ラフターヨガ・インターナショナル・ユニバーシティー認定笑いヨガリーダー

日本ヨガメディカル協会認定マインドフルネスヨガセラピー指導士/セラピスト