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【健康な高齢化・各論②身体的能力(前編)】『健康長寿の要件と、修正可能な認知症危険因子』

実際の医療現場に従事されている皆さまに執筆いただき、健康に役立つコラムを展開しています。コラムカテゴリは健康マスター検定の公式テキストカテゴリーに揃えています。
公式テキストと照らしあわせていただくことで、幅広い学習をしていただけます

健康な高齢化・各論②身体的能力(前編)】

百年健幸を目指して始めたライフワーク『笑顔と健幸プロジェクト』を通じ、WHOが提唱する“ヘルシー・エイジング(健康な高齢化)”を社会実装すべく活動しております。具体的には、“機能的能力”を決定する身体的能力、精神的能力、生活環境の開発および相乗効果を促す取り組みをしており、実例やその背景を紹介していきます。

今月から3回に渡り、個人の“内在的能力”のうち“身体的能力”に焦点を当てていきます。前編の今回は、『健康長寿の要件と、修正可能な認知症危険因子』について概説します。

 

図1健康長寿の三要件

これまでの百寿者研究の成果から、加齢に伴う①認知機能の低下が遅いこと1)2)、②心血管疾患リスクが低いこと3)4)、および③フレイル予防5)が健康長寿の達成に重要あることがわかってきました(図1)。

 

図2 65歳以上の要介護者等の介護が必要となった主な原因(令和6年時点で最新)

我が国は世界に先駆けて超超高齢社会(高齢化率28%以上)に突入しており、要介護者の増加は大きな社会問題となっております。令和4年版高齢社会白書6)によると、要介護者となった原因は認知症が18.1%と最多で、次いで脳血管疾患(脳卒中)が15.0%、高齢による衰弱(老衰)が13.3%、骨折・転倒が13%、関節疾患が11%と続きます(図2:令和6年現在、令和元年のこの資料が最新)。介護予防の観点からも、図1の健康長寿の三要件(上記①②③)の達成が望まれます

そこでまず今月は、認知機能の低下を遅らせる対策のために重要な研究をご紹介します。

 

図3

かつて“認知症は予防できない”と考えられていましたが、ロンドン大学のLivingston教授らが2017年にLancet誌において『修正可能な認知症危険因子』を9つ挙げ、2020年の修正版7)でさらに3つ追加した計12因子を発表しました(図3)。これらすべての『修正可能な認知症危険因子』に対処できれば認知症の発症を40%減らせる(※)ことを示しました。また、修正可能な危険因子は年代によって異なることが示されました。

(※)人口寄与危険割合(PAF:the population attributable fraction)
寄与危険とは、ある危険因子に曝露した場合に罹患リスクがどれだけ増えるかを示したもので、人口寄与危険割合は、危険因子に曝露した群の中で、真にその曝露が影響して罹患した人の割合を示している。つまり、その危険因子に曝露しなければ罹患しなかった割合

ここまでをまとめると、『修正可能な認知症危険因子』に適切に対処すれば、認知症だけでなく心血管疾患およびフレイルの予防にもつながり、健康長寿が期待できます

特に教育歴は、若年期(45歳未満)の対処で修正可能な認知症危険因子です。そのため若年世代の健康マスター検定受検を通じて、個人のみならず、先月のコラムでご紹介したように学域を通じて職域や地域に健康リテラシーの輪を広げていく活動(https://kenken.or.jp/about/voice/koe_15)には、社会的に大きな意義があると考えます。

【参照資料】

1)J Gerontol A Bio Sci Med Sci 2014;69:486-94
2)Acta Neuropathol Commun 2016;4:97
3)Nat Commun 2020;11:3820
4)BMC Geriatr 2015;15:159
5)日本内科学会雑誌 2020;109:427-33
6)令和4年版高齢社会白書(図1-2-2-7)
https://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/w-2022/html/zenbun/s1_2_2.html
7)Dementia prevention,intervention,and care:2020 report of the Lancet Commission(Lancet 2020;396:413-46)
https://www.thelancet.com/article/S0140-6736(20)30367-6/fulltext

 


北野克宣(きたの かつのり)

医療法人菅井内科 副院長/抗加齢・生活習慣病センター長

医師/産業医/医学博士(金沢大学)

健康マスター推進リーダー/健康マスターエキスパート・普及認定講師

日本抗加齢医学会 評議員/アンチエイジングドック推進委員

学会認定専門医(総合内科、循環器、禁煙、抗加齢医学)

日本臨床コーチング協会認定コーチ

NPO法人 禁煙推進の会えひめ 理事

日本笑い学会 笑いの講師団 “笑顔と健幸の伝道師”

日本臨床栄養協会認定NR・サプリメントアドバイザー

日本ポジティブ心理学協会認定ポジティブ心理学プラクティショナー

ラフターヨガ・インターナショナル・ユニバーシティー認定笑いヨガリーダー

日本ヨガメディカル協会認定マインドフルネスヨガセラピー指導士/セラピスト