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大腸がんの便潜血検査で要精査になったとしても… 

がんは、自覚症状が出てから発見しても、手遅れの場合が多いです。そのため、自覚症状がないうちに年一回、定期的に検査をすることで、がんを早いステージのうちに見つけ出し、早めに治療することが重要になります。

がんは、自覚症状が出てから発見しても、手遅れの場合が多いです。そのため、自覚症状がないうちに年一回、定期的に検査をすることで、がんを早いステージのうちに見つけ出し、早めに治療することが重要になります。

人間ドックの目的の一つは、がんの早期発見・早期治療

2016年の日本人間ドック学会シンポジウムでは、「がん対策に対する人間ドックの役目」のテーマがあり、「フォローアップ・受診勧奨」のセクションの座長をさせていただきました。

人間ドックの目的の一つとして、がんの早期発見・早期治療があげられます。がんは、自覚症状が出てから発見しても、手遅れの場合が多いです。いかに定期的に受診をしていただくか、そして、要精査の指示が出た方に対して、いかに医療機関で精密検査を受診していただくか、色々な発表があり、興味深い学会でした。

再精査を受診しない理由とは…

産業医としての現場でも、要精査の指示が出たにもかかわらず、精密検査をするために医療機関を受診してもらえず苦労した経験があります。

要精査でも実際に精密検査を受診しない項目として、一番多いのが便潜血検査です。便潜血検査は、大腸からの出血の有無により、大腸がん・大腸炎・大腸ポリープなどの病気を簡便的に調べる検査です。一般に二日法といって、二日間の便を提出していただきますが、そのうち一回でも潜血反応陽性が出れば、大腸の精密検査(大腸ファイバー“内視鏡検査”もしくは注腸検査“バリウム検査”)が必要になります。大腸がんからの出血は、常に出続けているのものではなく、間欠的に出るものですので、便潜血検査をもう一度行うこと(再検査)は認められません。ですから、必ず精密検査をしていただきたいのですが、この精密検査は、医療機関を受診しても、受診当日に検査を行うことができませんし、検査前には食事の制限や下剤を飲むなど検査前の処置もあり、時間的も身体的にも受診者の負担が大きい検査でもあります。

ですから、産業医先で便潜血陽性の方に受診を勧奨しても、まず出てくる言葉が、「時間がない」となります。こういう方については、何度も何度も精密検査を受ける必要性を説明せざるを得ません。時には、上長の方にも説明し、医療機関を受診できるよう仕事量の配慮をお願いすることもあります。

次に多い「受診できない理由(言い訳)」は、「痔があるから」という理由です。私はこういう方には、「痔があるからといって、大腸にポリープやがんがないことにはつながらない」と申し上げます。そして、残念ながら「痔があるから」といって精密検査を毎年逃れていた方で、本当に大腸がんが発見された方が数例います。そもそも、潜血陽性で要精査と指示されても「痔があるから」と、精密検査を受診されないのであれば、最初から便の検査をする意味がないのに…、と残念に思います。大腸がんは早期に発見できれば、内視鏡で切除できます。ところが、ある程度進行してしまうと、開腹手術や抗がん剤投与を余儀なくされます。「痔があるから」と逃げずに、手遅れになる前に精密検査を受診していただきたいと、説明しております。

最近あったケースでは、「父親が大腸がんで亡くなっているから、自分も多分大腸がんだろう。だから病院へ行くのが怖い」という方。事業所の看護保健スタッフの懸命な説得により、ようやく受診してもらえました。結果、やはり大腸がんでした。この方の場合、家族性大腸ポリポーシスといって、常染色体優性遺伝の遺伝疾患で大腸がんになったケースでした。手術は、がん摘出のみでなく大腸・直腸粘膜全切除を行いました。大腸・直腸粘膜よりがんが将来的にも発生する可能性があるためです。

「病院に行くお金がない」といって、受診を拒否している方もいました。「健康でないと働けませんよ。それに、病気を早いうちに見つける方が治療費は安く済みますよ」と説明します。

いろいろな理由で受診しない方がいますが、やはり病気の本質について知っていただくことが受診に繋がると考えています。また、病気を知ることで健康のありがたさも感じられるように思います。

人間ドックを受診し、要治療・要精査の指示が出た場合には、ぜひ医療機関を受診してくださいね。

参照ホームページ

日本健康マスター検定公式テキスト p158「がん検診の役割」参照】

 


勝木美佐子 (かつき・みさこ)

医学博士/産業医/労働衛生コンサルタント
日本大学医学部兼任講師、日本医師会認定産業医、日本医師会認定健康スポーツ医、日本人間ドック学会社員、日本公衆衛生学会評議員、日本産業衛生学会指導医、人間ドック健診専門医・指導医他、複数の学会で座長も務める。臨床医として診療活動と共に、産業医の経験も豊富。2016年産業医事務所を開業する。