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【健康な高齢化・各論②身体的能力(後編)】『睡眠と健康長寿』

実際の医療現場に従事されている皆さまに執筆いただき、健康に役立つコラムを展開しています。コラムカテゴリは健康マスター検定の公式テキストカテゴリーに揃えています。
公式テキストと照らしあわせていただくことで、幅広い学習をしていただけます

 

【健康な高齢化・各論②身体的能力(後編)『睡眠と健康長寿』

百年健幸を目指して始めたライフワーク『笑顔と健幸プロジェクト』を通じ、WHOが提唱する“ヘルシー・エイジング(健康な高齢化)”を社会実装すべく活動しております。具体的には、“機能的能力”を決定する身体的能力、精神的能力、生活環境の開発および相乗効果を促す取り組みをしており、実例やその背景を紹介していきます。

今月も引き続き、個人の“内在的能力”のうち“身体的能力”に焦点を当て、『睡眠と健康長寿』について概説します。

“すべての動物は眠る”ことが知られていますが、“なぜ睡眠が必要なのか”は判明していません。分かっている働きとして、質・量ともに十分な睡眠の確保で記憶の整理整頓長期記憶への転換などがあります。また、5月のコラムで述べたように、疲労因子の蓄積を解消して“真の疲労回復”を促してくれます。

反対に、徹夜明けの脳の状態は、ほろ酔い状態と同程度(血中アルコール濃度0.1%相当)と言われています。意外に思われるかもしれませんが、6時間睡眠が10日続くと徹夜明けと同じくらいパフォーマンスが下がります。また、睡眠不足になると利他的な行為が減ったり、怒りやすくなります。慢性的な睡眠不足で睡眠負債が蓄積するとメタボリック症候群、がんや認知症、うつ病などの発生リスクも高まります1)

睡眠と健康長寿との密接な関係をお示しするために、「Life’s Essential 8修正可能な8つの心血管危険因子)」という概念2)をご紹介します(図1)。これは米国心臓協会(AHA)がCVH (心血管健康;Cardiovascular Health)を促進するために提唱していた「Life’s Simple 7」に、2022年に新たに睡眠の重要性を加えたものです。具体的には、健康的な食習慣、運動習慣、適正体重の維持、禁煙、血圧・コレステロール・血糖値のコントロール、そして睡眠の8因子です。類似の概念に、6月のコラム図3の「修正可能な12の認知症危険因子」があります。

図1「Life’s Essential 8(修正可能な8つの心血管危険因子)」
A H A(米国心臓協会)ホームページ2)より引用

そして、この8因子を遵守する(=心血管健康が高い)ことで50歳時点での平均余命が8.9年も伸びることが報告3)されました(図2)。

図2 心血管健康(CVH)と平均余命3)

Circulation 2023;147(15):1137-1146 Figure.1より改変引用

図2のCから分かるように、「Life’s Essential 8」の実践で50歳以降の全死因死亡率の減少による生存年延長を認めており、この事実は6月のコラムの図1健康長寿の三要件に「心血管疾患のリスクが低い(=心血管健康が高い)」が挙げられていることとも符合します。

我が国においては、2024年4月より施行された健康日本21(第三次)(図3)で「睡眠時間が十分に確保できている者の増加」が新たな目標として追加されました(図4)。この目標を達成するためには、十分な睡眠時間の確保と質の向上、睡眠衛生環境、生活習慣、嗜好品の摂取等による影響、睡眠障害の予防・早期発見・早期治療の重要性を、より多くの国民に啓発することが重要です。そのため日本睡眠学会に所属する専門家を中心としたチームにより、「健康づくりのための睡眠ガイド2023」が作成されました5)。本ガイドは医療関係者だけでなく、健康マスターを含む国民の健康づくりに携わるあらゆる立場の方々に、健康の啓発や生活環境づくりで役立てていただくことを想定して分かりやすくまとめられておりますので、ぜひダウンロードしてご活用ください(図5、図6)。

図3

厚生労働省 「健康日本 21(第三次)」を推進する上での基本方針4)より引用

図4 健康日本21(第三次)の主な目標

厚生労働省 「健康日本 21(第三次)」を推進する上での基本方針4)より引用

図5「健康づくりのための睡眠ガイド2023」構成

厚生労働省 「健康づくりのための睡眠ガイド2023」5)より改変引用

図6「健康づくりのための睡眠ガイド2023」推奨事項の概要

厚生労働省 「健康づくりのための睡眠ガイド2023」5)より改変引用

最後になりますが、睡眠の大切さを啓発したい対象の方々に本ガイドを読解いただくことは難しいと思いますので、啓発に際して睡眠に関するエッセンスが平易にまとめられたマンガ6)などを併用してみてはいかがでしょうか。医療機関に限らず、職場やご家庭の本棚に置いてあれば気軽に読んでいただけるかと思います。

 

【参照資料】

1)日医雑誌 第153巻・第5号/2024年8月

2)A H A(米国心臓協会)ホームページ/Healthy Lifestyle/Life’s Essential 8

https://www.heart.org/en/healthy-living/healthy-lifestyle/lifes-essential-8

3)「Life’s Essential 8」Circulation 2023;147(15):1137-1146

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC10165723/pdf/nihms-1877921.pdf

4)厚労省:「健康日本 21(第三次)」を推進する上での基本方針

https://www.mhlw.go.jp/content/10904750/001102264.pdf

5)厚労省:「健康づくりのための睡眠ガイド2023」

https://www.mhlw.go.jp/content/10904750/001181265.pdf

6)「マンガでぐっすり!スタンフォード式 最高の睡眠」(西野精治、サンマーク出版)

https://www.sunmark.co.jp/detail.php?csid=3711-1

 


北野克宣(きたの かつのり)

医療法人菅井内科 副院長/抗加齢・生活習慣病センター長

医師/産業医/医学博士(金沢大学)

健康マスター推進リーダー/健康マスターエキスパート・普及認定講師

日本抗加齢医学会 評議員/アンチエイジングドック推進委員

学会認定専門医(総合内科、循環器、禁煙、抗加齢医学)

日本臨床コーチング協会認定コーチ

NPO法人 禁煙推進の会えひめ 理事

日本笑い学会 笑いの講師団 “笑顔と健幸の伝道師”

日本臨床栄養協会認定NR・サプリメントアドバイザー

日本ポジティブ心理学協会認定ポジティブ心理学プラクティショナー

ラフターヨガ・インターナショナル・ユニバーシティー認定笑いヨガリーダー

日本ヨガメディカル協会認定マインドフルネスヨガセラピー指導士/セラピスト