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【健康な高齢化・各論③精神的能力(後編)】『疲労回復のための休養法〜リカバリー、リフレッシュ、リラックスについて〜』

実際の医療現場に従事されている皆さまに執筆いただき、健康に役立つコラムを展開しています。コラムカテゴリは健康マスター検定の公式テキストカテゴリーに揃えています。
公式テキストと照らしあわせていただくことで、幅広い学習をしていただけます

健康な高齢化・各論③精神的能力(後編)】

『疲労回復のための休養法〜リカバリー、リフレッシュ、リラックスについて〜』

 

百年健幸を目指して始めたライフワーク『笑顔と健幸プロジェクト』を通じ、WHOが提唱する“ヘルシー・エイジング(健康な高齢化)”を社会実装すべく活動しております。具体的には、“機能的能力”を決定する精神的能力、身体的能力、生活環境の開発および相乗効果を促す取り組みをしており、実例やその背景を紹介していきます。

先月に続き個人の“内在的能力”のうち“精神的能力”に焦点を当て、今月は「疲労回復のための休養法〜リカバリー、リフレッシュ、リラックスについて〜」をご紹介していきます。

疲労やストレスの蓄積で個人の資源(心理的資本)は枯渇する

10月のコラム図1でも触れましたが、疲労やストレス(不快な情動)が蓄積すると、そこから活力を得ることが難しくなり、希望やレジリエンスといった個人の資源(心理的資本)が枯渇してワーク・エンゲイジメントが低下してしまいます(図1)。

 

図1(10月コラム図1の再掲)

ストレスフルな状況において、本人にとって好ましい活動に従事することで不快な情動を処理するための積極的な試みのことをリフレッシュ(気晴らし)といいます。リフレッシュの効果についてご紹介します(図2)。

図2

黒の実線はしっかりリフレッシュする人たち、灰色の点線はリフレッシュが少ない人たちを指します。グラフの横軸は問題焦点型対処に取り組む程度を、縦軸はその人の1年後のストレス反応の程度を、それぞれ指します。

1年後のストレス反応が最も良かったのは、しっかりリフレッシュしながら問題焦点型対処に取り組んだグループ(メリハリ型)でした。反対に最も悪かったのは、リフレッシュすることなくひたすら問題焦点型対処を続けたグループ(生真面目型)でした。

図1に示したように、ストレス度が低いことは個人の資源(心理的資本)の枯渇を防いでくれます。したがって、ワーク・エンゲイジメントを高めるには、“効果的な”リフレッシュが重要であると云えます。

“効果的な”リフレッシュと敢えて強調したのには理由があります。5月のコラムでも述べましたが、疲労因子が蓄積したままだと、リフレッシュ活動の強度によってはさらに疲労因子が増えてしまうからです。それを防ぐには、語感が似ているリカバリーとリフレッシュ、リラックスの関係を理解して取り組むことが大切です(図3)。

図3

4月コラムの図表5への解説でも簡単に触れましたがリカバリー経験(休み方)は疲労の回復やストレス(不快な情動)の解消を目的としており、並立可能な4つの行動要素に大別されます(図3)。そして、リラックスはこの4つの要素の一つとして、疲労やストレスの低減に最も効果的でした(図4)。

図4(4月コラム図表5の再掲)

一方リフレッシュ(気晴らし)の目的は、あくまでストレスフルな状況における不快な情動の解消のために、この4つの要素を組み合わせて、本人にとって好ましい活動に積極的に従事することにあります。すなわち、リフレッシュは必ずしも疲労の回復を念頭においていないという点に注意が必要です(図3)。

この点に留意し当院のリカバリー(疲労回復)外来では、疲労度の検査結果に応じて勧奨するリフレッシュ行動を4つのカテゴリーに分類しております。ここではその一部をご紹介します(図5)。

図5

疲労感VAS検査(日本疲労学会版)、心拍変動解析(HRV)による自律神経評価や血中ストレスホルモン(コルチゾール)/抗ストレスホルモン(DHEA-s)比による心身疲労度検査などから疲労の蓄積が高度と診断した場合、データが改善するまではリラックス要素が中心の安静な活動(図5下段の緑色、桃色)以外は極力控えるよう勧奨しております。特に、活発な対人活動(図5右上の黄色)については、他者との連携状況によっては本人の意図を超えて頑張り過ぎてしまうリスクがあるため自粛するようご説明しております。

疲労が蓄積している場合に安静を促す理由は、様々な病気や過労死の原因となり得るからです(図6)。

図6

ストレス源に対する反応には個人差があり、自覚したストレスに対して行動反応を取ります。我々は7つの健康関連行動を挙げ、特にその人のデータ推移に影響を及ぼしたと思われるものを“潜在行動”と定義しております。

5月のコラムで述べた疲労因子の蓄積に応じて生じた疲労感によって活動量が調整されます。これを統合的ストレス応答(ISR)と云います。

しかし、野生動物や原始時代の人類にとって脅威とはそもそも生死に直結する問題であるため、疲労感に身を委ねて休養することが最善ではない状況もありました。その場合に効果を発揮したのが、もう一つのストレス応答系である視床下部-下垂体-副腎(HPA)軸ストレス応答です。自律神経系や内分泌系からアドレナリン、ノルアドレナリン、ストレスホルモン(コルチゾール)などが分泌されることで疲労感を抑制し、活力を増強してくれます。

我々の体には、ストレス源に対してISRやHPA軸といったストレス応答システムを駆使しながら、内外の環境変化に迅速に対応することで生体の恒常性(ホメオスタシス)を維持しようとする動的適応能(アロスタシス)が備わっています。

しかしVUCA社会の現代においては、生死に直結しない生活上の様々なストレス源への暴露が常態化しており、ISRによる生理的疲労を無視してHPA軸で疲労感だけを抑圧し続けていると、疲労因子が過度に蓄積してアロスタティック負荷をきたしてしまいます

その結果、心臓、脳、肝臓、腎臓、筋肉などの重要臓器で蛋白合成が抑制されたりアポトーシスが誘導されたりして、最終的に過労死、うつ病、老化、がん、認知症、生活習慣病などの発症リスクが高まってしまいます

HPA軸のコルチゾール同様に抗酸化作用がある成分をたくさん含む、うなぎやニンニク、栄養ドリンクやサプリメントなどの摂取で疲労感だけを抑え込んで元気だと錯覚できても、適切な休養(睡眠、滋養、リカバリー経験、リフレッシュ)を積極的に取らなければ、本当の疲労回復と活力増強は叶いません

そのため当院では、百年健幸を目指して始めた自身のライフワークである「笑顔と健幸プロジェクト」を通じてWHOの提唱するHealthy Ageingを社会実装すべく、精神的・肉体的・社会的アプローチで、疾病の予防と最適健幸の促進の一環として疲労回復と活力増量にも努めております(図7)。

図7

最終回は、【健康な高齢化・実践編】をご紹介します。

※VUCAとは、元々はアメリカ陸軍戦略大学が提唱した概念で、

Volatility(変動性)

Uncertainty(不確実性)

Complexity(複雑性)

Ambiguity(曖昧性)

の頭文字をとったものです。

【推奨資料】

1)ブルーバックス「疲労とはなにか〜すべてはウイルスが知っていた〜」近藤一博(講談社)

2)「働きがい」を持って働くことのできる環境の実現に向けて(令和元年版・労働経済白書 第Ⅱ部第3章の抜粋)

https://www.mhlw.go.jp/wp/hakusyo/roudou/19/dl/19-1-2-3.pdf

3)新版ワーク・エンゲイジメント(島津明人、労働調査会)

https://www.chosakai.co.jp/publications/27132/

→ワーク・エンゲイジメントの概念と豊富な研究データが一緒に分かりやすく解説されているため、実務担当者におすすめの一冊です。


 

北野克宣(きたの かつのり)

医療法人菅井内科 副院長/抗加齢・生活習慣病センター長

医師/産業医/医学博士(金沢大学)

健康マスター推進リーダー/健康マスターエキスパート・普及認定講師

日本抗加齢医学会 評議員/アンチエイジングドック推進委員

学会認定専門医(総合内科、循環器、禁煙、抗加齢医学)

日本臨床コーチング協会認定コーチ

NPO法人 禁煙推進の会えひめ 理事

日本笑い学会 笑いの講師団 “笑顔と健幸の伝道師”

日本臨床栄養協会認定NR・サプリメントアドバイザー

日本ポジティブ心理学協会認定ポジティブ心理学プラクティショナー

ラフターヨガ・インターナショナル・ユニバーシティー認定笑いヨガリーダー

日本ヨガメディカル協会認定マインドフルネスヨガセラピー指導士/セラピスト